変動する地政学的な地雷原を行く5年

※本記事は、2017914日付けのForbes寄稿記事の転載です

「暗い部屋で黒い猫を見つけるのはとても難しい。猫がいない場合は特にそうだ」
– 古代の金言(一般に孔子の言葉だと言われている)

5年ほど前から、Kaspersky Labは少数メディアによる集中砲火を浴びてきた。これらの不当な報道では、当社が政府機関との間に倫理に反するひそかなつながりを持っている、当社が米国の国家安全保障にとって脅威となりうる、当社の米国事業はうまく行っていない、などとされている。5年にわたる調査報道、臆測、伝聞、噂、公開データの操作匿名情報提供者からの情報、陰謀論、そして作り事だ。5年経った今、どれほどの証拠と具体的な事実が見つかっただろうか?ただの1つもなし、ゼロ、無だ!

政治がニュースを利用して事実を作っても誰も得をしない

そして残念なことに先日、米国政府機関から連邦機関の民生部門に対し、当社製品の使用を停止せよとの指令が発せられた。幸いなのは、当社の北米事業において米国政府機関に対する売上が大きな割合を占めていないことだろう。よって、残念であるものの、我々としては今後も主たる顧客基盤である法人および個人の顧客を保護することに注力していく所存だ。

なぜこのような事態になっているのか、という疑問をお持ちだろうか。

これまで繰り返し述べてきたように、前述のような偽りの報道を裏付ける証拠はない。Kaspersky Labはいかなる政府とも不適切なつながりを持っていないからだ。

https://twitter.com/x0rz/status/904810308539166725

ある意味では、それほどの長期にわたる綿密な調査が行われてもなお、何ら不都合な事実が見つかっておらず、かえって透明性に向けての当社の真摯な取り組みが裏付けられていることを感謝している。当社の顧客やパートナーは直接に承知していることだが、透明性と信頼は20年の実績を持つ当社の事業の要であり、この基本原則は今後も、どのような地政学的な緊張や不正確な報道があろうとも、変わることはない。

地政学的な議論に真実は必要ない。何の証拠もなくとも最初から非難すべき標的は決まっているのだ

Kaspersky Labが米国議会の公聴会で議題に上り、政府職員が当社製品に対する懸念を表明したことから、ここ数か月ほど報道の過熱ぶりが激しさを増している。話題性を狙った報道と同様に、懸念の根拠を裏付ける事実や証拠はない。我々は何も誤ったことをしていないのだから。

事実、私はこれまで何度も、政府職員と面談する、米国議会で証言する、当社のソースコードを提供して公式の監査を受ける、その他米国政府がKaspersky Labに対して抱いている疑惑を解消するための方法について話し合う、といった協力をする用意があることを表明している。どれほどの負担がかかっても私はやるつもりだ。関心のある政府機関や政府職員があれば喜んで協力したいと考えている。(※訳注:本記事掲載後、2017年9月14日付けで、ユージン・カスペルスキーは米下院科学・宇宙・技術委員会による公聴会への出席機会を得ています)

このようにかねてより我々が実体のない非難にさらされているところに、米国政府は引き続き当社製品に対して厳しい措置を取る意向のようだ。こうした動きについて、元国家安全保障の専門家さえ、Kaspersky Labに対する処遇は公平性を欠くという意見に同意していると報じられている。また、サイバーセキュリティ専門家、ジャーナリスト、アナリストの間では、講じられた措置の中の一部が政府機関の請負業者に適用される透明性と適正手続きの規定に違反しており、推定無罪の原則を無視しており、サイバーセキュリティビジネスに関する保護主義的な動きを後押しする悪しき前例となってしまう、という深刻な懸念が表明されている。

では、具体的に何が起きているのだろうか?私には、(我々が重ねて協力する姿勢を見せているにもかかわらず)当社製品を遠ざける動きが見られる理由は、1つしかないように映る。地政学的な波乱だ。

政府間に緊張があるとき、犠牲になるのはいつもビジネスだ。だが、標的として選ばれた者(私の会社)が、たまたま世界最高水準のサイバーセキュリティ製品とサイバー脅威リサーチを提供できる会社だったら、何ができるだろうか?取りうる方法は1つしかない。その会社の出身地を槍玉に挙げることだ。

Washington Postの最近の記事では、この状況の主たる要因として考えられることについて光を当てている。それは前大統領の政権時代に起きたことだと考えられている。

当社が標的にされている理由についての証拠はないものの、1つ明らかなのは、当社が地政学的な抗争の只中に巻き込まれたということだ。我々にやましいところは一切ないのだから、当社に対する誤った非難を裏付ける証拠が見つかることはないだろう。その代わり、今後も事実無根の言いがかり、陰謀論、持論が数多く出回る状況が続くだろう。このようなものは、残念なことに、驚くほど伝染しやすいのだ。

以前も述べたとおり、国によってはロシア人であることが歓迎されない時代だが、自分のルーツは変えられるものではなく、率直に言って、その国の出身だからと言って有罪だということにはならない。

何よりも不穏な雲行きを感じさせるのは、いずれ他の国の他のサイバーセキュリティ企業が当社と同じ立場におかれるかもしれないという点だ。地政学的な議論に真実は必要ない。何の証拠もなくとも、非難すべき標的は最初から決まっているのだ。

もっと大きなスケールで見てみよう。このような思慮に欠ける措置は、競争を阻害し、技術革新を停滞させ、犯罪者を捕えるためのサイバーセキュリティ業界と法執行機関の間の協力関係を損ねることによって、世界全体のサイバーセキュリティに悪影響を及ぼしかねない。

ここ数年、情勢は地政学的な地雷原に捕らえられた企業にとって不安定の度を増しており、その結果、さまざまな企業が知らずして地政学的な駆け引きの駒にされている。オーストラリアが中国を閉め出し、米国がロシアを閉め出し、ロシアが米国を閉め出し中国が他国を閉め出し…ニュースを読んで、これが21世紀に起きていることなのかと我が目を疑うことがある。なぜ各国の共通の敵であるサイバー犯罪者へ立ち向かうための協力をやめようとしているのか?

サイバー犯罪に対抗することは、サイバー犯罪者がそうしているように、我々善人が国境の壁を乗り越えることができて初めて可能になる。さまざまな国の法執行機関が協力して活動することが、成功への唯一の道だ。現に近年、そうした協力関係のかいあって多くのサイバー犯罪者の訴追、処罰が実現している。当社がさまざまな国のサイバー警察、そしてインターポールユーロポールといった国際機関と合法的に協力しているのもそのためだ。協力関係がなければ、連携してサイバー犯罪を訴追することなどできず、処罰が行われなければサイバー犯罪者やサイバー攻撃は勢いを増すばかりだ。それでは一般の人々、企業、経済すべてが苦しむことになる。

サイバーセキュリティ分野の国際的な協力関係の脆弱な基盤が継ぎ目からほころび始めているのが目に見えるようだ。一部の国家間の関係は、15年前に押し戻されている。果てしなく続くかのように見える地政学的な嵐がいつ過ぎ去るのか、そして有益で良好な関係を築き直すためにどれほどの時間がかかるのか、先行きは不透明だ。

セキュリティ業界が分断されることで誰が得をするのか?
そう、これは答えのない問いかけだ。

どのような状況でも、明るい面を見つけることはできる。この長い嵐のお陰で、当社は業界の他のどのサイバーセキュリティ企業よりも透明性の高い企業になった。我々は我々会社の大義のもとにこれまで以上に団結し、最終的には我々の勝利となることを信じ、社員一丸となって堂々と立ち向かうつもりだ。

こうした困難はあるが、どの地域からのどのような意図を持ったどのようなサイバー脅威があろうとも、我々は今後も世界中のユーザーを守る仕事を継続する。ではそろそろ仕事に戻るとしよう。世界をサイバー脅威から救わねばならないのだから、すべきことは山ほどある。

政治は反則だらけのスポーツだ、政治が #サイバーセキュリティ を左右するのを見るのは悲しい @E_KASPERSKY がDHS指令についてコメントTweet
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