2016年11月8日
ダーウィンの特許パノプティコン:パート2
面白いことに、世界中の特許を集めてみると実に色とりどりの「景観」が広がるが、各国の発明品にはその国ならではの「味わい」がある。
たとえば、米国の特許はおおむね実用的な傾向にある。実利性をとことん追求したものもあれば、小難しい言葉でディテールへのこだわりを説明しているものもある。私の独断と偏見による過去最高に[適切な言葉を入れてくれ]な特許トップ5をご覧いただければ、わかるだろう(笑)
かたやロシアの発明者は概して野心的で、中には「宇宙」に恋焦がれ、世界、惑星、そして銀河を変えようとしているものさえある。その発明品が滑稽にも「この世のものとは思えない」ほど奇抜だという意味でも「宇宙的」だが。もっと詳しく?よし、もう1つのトップ5を披露しよう。今回はロシア版だ。
では始めよう…
独断と偏見による過去最高に[適切な言葉を入れてくれ]なロシアの特許トップ5!
第5位:聖なるモーセ!
まずはロシアの特許出願番号2013144180「世界的な洪水や地球規模の氷河期など不測の自然災害下において地球上の人類の存続と生存生物の遺伝子プールの保存を可能にする方法」だ。ああ、偉大なる遺伝子プールよ!
タイトルが長いって?なら、これでどうだ…この出願書の最初のページにある概要はたったの1文、1182文字だ!出願者の記したチンプンカンプンな文章を解読しなければならなかったロシアの特許弁護士に心から同情する。なぜなら、真ん中あたりまで読み進んだところで最初の部分を忘れて振り出しに戻り、また途中でわからなくなって最初まで戻る、の繰り返し。しまいには余白にメモするはめになる。私自身5回読んでようやく自信を持ってこの発明品の「根本的な要点を4語にまとめる」ことができた。「マトリョーシカ・人形・式の・箱舟」だ(笑)
この発明品は微生物、種子、動物、ホモサピエンス3名、その他「遺伝的資源」を詰め込むための入れ物で、難を逃れるべく世界最高峰の山の頂上に設置される。
だが、もし自然が超ご機嫌ななめで山まで水浸しになったらどうなる?ご心配なく。そのときは空気式のゴムボートを箱舟から投げ出して、水がすっかり引くまで水面上を漂流するのだ。すべて織り込み済みらしい。
PS:引用:「地表が生活できる状態に安定したら、チームのメンバーは階段で山を下りる。ここから地球での生命体再生の新たな時代が始まる」
さらにPS:ロシア特許庁はこの申請をいい加減に却下したわけではなかった。深刻なトロール行為の横行を踏まえた、発明の新規性の喪失に基づく判断だったのだ。聖書までさかのぼる先行技術が理由として挙げられなかったのはかなりの驚きだったが(笑)
第4位:タバコ以外のものも吸うのを止めた方がいい
「禁煙したくてもそのたびに何かと横槍が入るあなたも、これがあれば何にも邪魔されない!」というのがこれ、特許RU2231371だ。
この発明品が一体全体何なのかわかる人は、私だけでなく世界中どこにもいないだろう。発明者も含めてだ。どういうことかおわかりいただけるよう、本文を引用しよう。
「最後のタバコを吸う儀式の後に、塩化カルシウム溶液入りのガラス瓶の中身をタバコの煙の水溶液が入った容器に注ぎ、禁煙5日目または6日目に、医師が他者による自律訓練の最終セッションを実施し、さらに、最終セッションでは『生命の水』容器の代わりに、患者は1瓶のジオキシジン1%溶液10mlを入れた『言葉』という名の第3の容器を使う。自己暗示の決まり文句は誓いの言葉『私は禁煙しました』に変わる。最終セッションの後で、患者は自己コーディングの儀式を行う。儀式では、タバコの煙と塩化カルシウムの水溶液50mlを使用し、そこにジオキシジン溶液をガラス瓶から注ぐ…」
本気で言っているのか?
いや、一体何を吸っていたのだ?どこで書いたのだ?アムステルダムのカフェか、それともコロラドか?もしや支離滅裂な文章はこの禁煙方法の副作用かもしれない。まあ、この特許は州税未納で失効しているからどうでもいいが。(「ヨォ、Duty(税金)払ったか?」「ヨォ、Duty(税金)が何だって?俺はdue tea(紅茶を飲む気)なんかないぜ。エスプレッソくれよ」)
第3位:銃排泄物入りの砲弾!
戦車の中でできないことは?かなりある。できないことを延々とあげるより、戦車の中でできることを数え挙げた方がはるかに簡単だ。
では、たとえばその…トイレを使わなければならない状況になったらどうするか。切羽詰まって我慢できなくなったら?数分たりとも戦車を離れるわけにはいかないし…
…ということで特許RU2399858をご覧あれ。「戦車乗員の生理機能による排泄物を大砲に詰めて排出する」という代物だ。戦闘の緊張感を切らさずに済むのがポイント!
この「ロケット弾」を発射すると、当然ながら敵は、たった今自分たちに向けて何が飛んできたのか、とうろたえる。その瞬間にガードが緩むから、先手有利な状況になるという算段だ。そしてもう1つ、この特許の説明によれば「乗員の住環境と生理機能を改善し、士気を高めるきっかけになる」らしい。なるほど!だが、乗員たちは、(戦場で肥やしを浴びせることを面白がりすぎて)我を忘れたり集中を欠いたりするわけにはいかない。そうでないと…笑い死にするか、最悪、実弾を戦車砲に装填し忘れるかもしれない(笑)
こんな特許テクノロジーが戦場に採用されるなど、考えるとギョッとする。しかし、軍の演習を想像してみたらどうだろう?実演を見ようと世界中からやってきた高級官僚、兵器ディーラーそして一般客の目の前で、最新式戦車が、ぶちかます!やれやれ。
第2位:名は体を表す!下半身にまつわる発明品
さて、特許申請番号2012155514はいたって明瞭。「男性器を拡大するためのトレーニングシステム」だ。「長さ」ではなくて、単に「男性器」だ。なんと出願者であるリ・フアイ(Li Huay)氏の名前は、ロシア人の耳には男性器の名称そのもののように聞こえるのだ!
本文を引用してみよう。
「男性器を拡大するためのトレーニングシステムは、男性器を拡大するトレーニング装置で構成される。この装置は、硬質材料でできたメインフレームと、メインフレームに沿って前後にスライドする1個以上のスライド部から成り、フレームとスライド部で男性器を包み、メインフレームとスライド部によって男性器[の挿入]に適した口径の4つの長い側面が形成される。外周を囲むこの開口部の内壁は妨げることなく…」
まるでダリ(Dali)ミュージアムにある奇怪な装置の説明みたいだ。
第1位:火星特許
特許RU 2585811は「火星の噴気孔を開ける方法」だ。この特許には、発明に挑むロシア人の「銀河」指向の思考と、説明の簡潔さが最もよく表れている。また、特許に値する要素がどこにあるのかを見極めようとするロシアの特許管理人たちの地獄のような苦労がわかる究極の例でもある。
質問:火星の噴気孔をどうやって開けるのか?
回答(引用):「火星の[塞がった]噴気孔をくり抜いて開けます」
質問:なぜ火星の噴気孔を開ける[開けたい]のか?
回答(引用):「噴気孔から放出されるガスによって大気の質量と体積が増加する可能性を考慮し、火星の資源を調査できるようにするためです」
これ以上聞きたいことはない。火星移住計画を構想するマスク(Musk)氏ならこの特許のために一体いくら払うだろうか?
PS:この特許の出願者は火星への旅に向けた壮大な計画を立てている。火星で夜間照明を調達する方法(RU2566578)、火星基地で生命維持ガスを維持する方法(RU2573699)、火星大気への入射熱の放熱を局所的に高める方法(RU2586902)、火星の大気を増加・加熱する方法(RU2547207)など、他にも火星関連の発明品の特許を取っている。
マスク氏よ、見逃すことなかれ!
最後に
ロシアの特許にはもう1つ、他の国々とは一線を画する特徴的な性質があるようだ。
特許取得にいそしむロシアの発明活動で重要な役割を担っている「発明者」には3つのタイプがある。(i)トロール、(ii)サイコパス、そして(iii)やめられない止まらない人だ。ロシア特許局の人たちを憐れむべきか、うらやむべきかわからないが、無論、その作業はとびきり困難で、時にとびきり楽しくもあるのだろう。