2015年2月20日
世界最大の装置 – その2
Bonjour mes amis!
さて、前菜のスープを召し上がっていただいたところで、いよいよメインディッシュに進むとしよう。むしろメインディッシュの中に入るというべきか。メインディッシュとしてふるまわれたパイの中に、何が詰まっているかを確かめる――キドニーパイのようなものだが、私はよくかんで食べるつもりだ。
要するに、スイスとフランスの国境に位置し、原子物理学者たちが自然の本質そのものを研究している地味な建物の中で何が起きているかを見ていきたいと思う。
だが、加速器の中で起こっていることを、何から何まで平坦な言葉で説明できるとは思わないでほしい。この記事でお伝えするのは、4時間の見学で私が覚えていることだけだ。年のせいで記憶力がにぶっていることを考えると、確かな事実はそれほど多くないだろう。ただ、同行したA.B.とS.B.に手伝ってもらったので、内容があまりも乏しいということはないはずだ…
最初にまた断りを入れておきたい。
原子物理学者の皆さんにもう一度お願いする。この記事では、科学の難しい話(技術、プロセス、実験)を非常に簡潔な言葉で説明するつもりだが、ごく平凡な人間が書いていることを理解してほしい。世界最大の秘密が隠された部屋を、ドアの隙間から偶然覗いただけなのだ。そのため、不正確な記述もあるだろう。気楽に読んでくれるとうれしい。それでも専門家として何か言いたいことがあれば、下のコメント欄に書き込んでほしい。
大型ハドロン衝突型加速器と欧州原子核研究機構(CERN)については誰もが耳にしたことがあるだろう。
しかし、聞くだけで実物を見る機会がなければ、どちらの言葉もとても抽象的で、すごそうだがよくわからないという印象を受けるかもしれない。「何だって??」という感じだろう。だが、実際にCERNの施設の中で、ゆっくりと順を追って説明を受ければ、徐々にではあるが着実に、少しは理解できるようになるはずだ。
まずは歴史を簡単に紹介する。CERNは1950年代にひっそりとつつましく誕生した。それ以来、有機的に成長と拡大を続け、必要に応じて新しい部分が追加されている。まさにキルトパッチのように、大きさも目的も異なるさまざまな加速器をつなぎ合わせ、ありとあらゆる物質の微量元素の研究に利用されている。
最初は比較的小さな加速器しかなかった(最初の加速器は1957年に製作)。新しい技術が発明されるにつれて、より高性能な加速器が徐々に追加されていき、その一方で、技術的に古くなった旧型の加速器は使われなくなっていった。
現在このパッチワークは、多数の加速器で構成される複雑なシステムとなり、粒子の加速に利用されている。粒子はまず1つめの加速器に注入され、次に2つめ、3つめ、という具合に加速器を通過し、超高速で加速されていく。そして、超強力な磁場によって、必要とされる標的に粒子が送られる。つまり、そこかしこの陽子や中性子を加速器でとてつもないスピードまで回転させ、標的にぶつける!後は戻って、結果として何が起きたかを検証するのだ。
これは現代の錬金術だ!
暗黒の中世時代、錬金術師たちは不思議な材料を混ぜ合わせ、高温で煮込み、その結果を観察した。現代の錬金術師もやっていることは同じで、材料が違うだけだ。陽子をほぼ光速で中性子に衝突させ、結果を見る。この類似点には、ちょっと考えさせられた。人類は常に好奇心旺盛で、無知だった!それは今も変わっておらず、やはり好奇心の強い無知な存在のままだ。もちろん、人類が中世以来学んできたことは計り知れないほど多いが、時とともに、我々の知識の及ばない領域が拡大し続けていることにも気付いた。限りなく大きくなっていると言っていいだろう!好奇心をそそられるし、胸が高鳴る。まだまだ多くの発見が残されているということなのだ。
が、そろそろ実体があるものの話に戻るとしよう…
以前、大型ハドロン衝突型加速器は完成された技術を具現化したものだと考えていた。だが、実際はさまざまな時代の異なる技術の寄せ集めだった。昔の技術の上に最新の技術を付け足したものだ。最初にシンクロサイクロトロンがあった。その後、粒子をより加速するために、もっと近代的な装置が追加され、磁場の方向をコントロールできるようになった。さらにその後、バルコニーや屋根裏などがどんどん追加されている…
まるで鉄道網のようだ。まず1つの路線と駅を作ってから、寝台車が走るもっと近代的な鉄道を増設する。CERNの地図は鉄道そのものだ。分岐も、環状線(加速器)も、行き止まり(トラップ)もある。
では、大型ハドロン衝突型加速器の中はどうなっているのか?
説明しよう。水素原子から電子を分離し、残った陽子を加速し、とんでもない速さで(アインシュタインの一般相対性理論を信じるならほぼ光速で)別の陽子にぶつける。すると、その陽子は並列パイプに沿って同じ速さで反対の方向に飛んでいく(これについては後ほど)。要するに、2つの物質を信じられないようなスピードで加速させ、衝突させるということだ。
これを家でやってみようとは思わないでほしい。陽子を分離するプロセスは極めて難解で、大変な能力と相当な電力が必要だ(自宅でやろうとすれば、家全体どころか近隣一帯のフューズが飛ぶことになる)。
物理学の話に戻ろう…
CERN鉄道の別の駅では、哀れな陽子だけでなく、別の物質の加速と衝突も行われている。鉛のイオンや中性子も使われているのだ。
さて、CERNにおける現象を数学的に説明しよう。非常に衝撃的だ!
- 大型ハドロン衝突型加速器の中で、陽子は複数の加速器を通過する(線形加速器、ブースター、もう1つ、そして7kmの加速器)。最終的に、陽子の塊は10,000サイクル毎秒以上のスピードで移動する。
- 塊の中の陽子の質量は微々たるものだが、かなりのスピードなので、塊のエネルギーは電車ほどになる。「これほどのスピードであれば、どれだけ光速に近いかは重要ではない」そうだ。それにしても速い。その結果、科学者たちは、標準理論を超える、新たな素粒子論を打ち立てるための科学的根拠を探す。人類にとってどんな意味があるのかと言うのは、コンピューターが有史以前の人類に対して何の役に立ったのか、と言うようなものだ。当時は(まったく)わからなかっただろうが、いずれは…
- ここでは、空気1立方メートル当たりに含まれる「科学」濃度の高さを、実感できる。1つめの建物に入ったとき、私の最初のコメントは「ここは科学のにおいがする」だった。ある職員がこう答えてくれた。「そう、科学のにおいはどこに行っても同じです」
CERNは仕事に「ぴったり」の場だ。ある種のオーラをすぐに感じるだろう。偉大な新しいアイデアと沸き立つ心。そんな仕事のにおいがする。生まれ変わったらこの仕事を選ぶ。超科学、最先端技術、信じられないような革新。当社のアンチウイルスラボと少し似ている。次の人生では、きっとコンピュータープログラミングではなく原子物理学の研究をしているはずだ。