迷えるスーツケース

そのとき、どんな気分になるだろうか…。あなたは飛行機に乗り込み、搭乗が済んで飛行機が飛び立つのを待ちつつ、作業員が貨物を積み込むのを窓際の席から眺めている…積み終わって作業員が去って行く…ふと気付くとスーツケースが1個、ぽつねんと取り残されている。大きくて黒いやつが。それも、自分のスーツケースが！

ちょっと待って…それ、見覚えがあるんだが…

それは滑走路に置かれている。本来あるべき機内ではなく。目を凝らすと、どういうわけか派手なオレンジ色のステッカーが、大文字で「NOT OK」と大書されたやつが、貼り付けてある。まったくだ、OKなんかじゃない。

私の不安は募っていった。1分ほどすると、似たようなオレンジ色の作業服を身につけ髪を束ねた作業員がゆっくりと私のスーツケースに近づいていき、疑わしげに一瞥を与えると、なにかの電子機器をかざしはじめた。やがて彼は異議ありげに頭を振り、スーツケースを引きずりながら機体の後方へ消えていった。いったい…？意味がわからない。しかも、こんな奇妙なことが私の目の前で起こっていたというのに、私はまるで為す術がなかった…あああぁぁぁぁ！

この異様な光景が繰り広げられたのはつい先日、スイス航空でニューヨークからブダペストへ向かう途中にチューリッヒでストップオーバーしたときのことだ。最終的には、私のスーツケースは機内に積み込まれ、無事ハンガリーで手元にやってきたのだが、いったい何が「NOT OK」だったのか未だに謎のままだ。残念なことに、私が手荷物受け取り場でスーツケースを回収したときには、そのステッカーは剥がされていた。なんとも残念だ。この普通ではないステッカーを、我がステッカーコレクションに加えたかったのに。