月ごとのアーカイブ:9月 2020

サイバーセキュリティ:自動車品質の新側面

21世紀の自動車も機械的装置であると、かなりの人が考えているようだ。確かに、自動車にはさまざまな用途の電子機器が多少なりとも取り入れられているが、結局は機械工学が作り上げたものだ。シャーシ、エンジン、車輪、ハンドル、ペダル、…すべて機械だ。電子機器は(「コンピューター」を含め)、機械部分の機能を補助しているだけだ。実際、最近のダッシュボードはほとんどがデジタル表示になっている。

率直に言おう。そんなことはない。

現代の自動車は、基本的に特殊なコンピューターだ。我々が「自動車」という言葉から連想する昔ながらの機械装置や電気装置—エンジン、ブレーキ、方向指示器、ワイパー、エアコンなど—を制御する、「サイバー脳」なのだ。

たとえば、以前はハンドブレーキといえば例外なく機械式だった。手で握って引くと、きしむような音を立てる。それが今はボタンを押すだけになっている。機械要素はゼロ。100%コンピューター制御だ。ほとんどのものがそうなってきた。

さて、自動運転車といえば、コンピューターが車を操縦するものだと考える人が多い。では、最新型の自動車でハンドルを握っているのが人間なら、(コンピューターではなく)人間が運転していることになるのだろうか?

もう一度言おう。そんなことはない。

最新型の自動車になると、車が自律的に走ることと人間が運転することの違いは、後者では車載コンピューターを人間が操作し、前者では車載コンピューターを非常に高性能なメインコンピューターが制御する、というだけのことだ。そのメインコンピューターを開発するのはGoogleYandexBaiduCognitive Technologiesといった企業だ。このコンピューターは、目的地を与えられると、ナノ秒単位で更新される超スマートなアルゴリズムに基づいて、周囲の状況をくまなく確認し、目的地までどのように移動するか(時速、経路など)を判断する。

自動車のデジタル化に関する小史

では、機械からデジタルへの動きは、いつ始まったのだろうか?

一部の専門家は、自動車産業のコンピューター化は1955年に始まったと考えている。Chryslerが、ある車種にオプションとしてトランジスターラジオを搭載し始めた年だ。その一方で、ラジオは厳密にいうと自動車の機能ではないので、電子制御式点火装置(Pontiac、1963年)、アンチロックブレーキシステム(Chrysler、1971年)、電子エンジン制御システム(GM、1979年)をもって自動車のコンピューター化の嚆矢とする考え方もある

始まった時期にかかわらず、それ以降がおおむね同じように進んだことは間違いない。電子化が進み、続いてデジタル化が始まった。その境界線はあいまいだが、私が考えるに、自動車技術においてデジタル革命が始まったのは1986年2月、SAE Internationalの会議でRobert Bosch GmbHが自動車の電子部品間での通信に用いるデジタルネットワークプロトコル「CAN(Controller Area Network)」を発表したときのことだ。彼らには当然の尊敬が与えられるべきだ。こんにちもなおCANプロトコルは十分に機能しており、実質的に世界中のあらゆる車に使われている。

CAN以降の自動車とデジタルに関する、詳しすぎるまとめ

BoschからはさまざまなタイプのCAN(低速、高速、FD-CAN)がリリースされたが、現在ではそのほかにFlexRay(トランスミッション)、LIN(低速バス)、光ファイバーのMOST(マルチメディア)、そしてついに車載Ethernet(現在は100mbps、将来的には最大1gbps)といった技術も登場している。今どきは自動車を設計する際に、さまざまなプロトコルが採用される。ドライブバイワイヤー(機械的な接続に代わる電気システム)は、電子ガスペダル電子ブレーキペダル(1998年以降トヨタ、Ford、GMがハイブリッド車と電気自動車に採用)、電動パーキングブレーキ電子トランスミッション電動ステアリング(2014年のInfinity Q50初めて採用)をもたらした。

BMWのバスとインターフェイスBMWのバスとインターフェイス

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YARAルール:ブラックスワンを予測する

人類がこのような年を過ごすのは実に久しぶりだ。さまざまな姿形の「ブラックスワン」をこれほど集中して目撃した年は、今までになかったと思う。私が言うのは羽毛に覆われた生き物のことではない。ナシム・ニコラス・タレブ(Nassim Nicholas Taleb)氏が2007年に出版された自著『ブラック・スワン:不確実性とリスクの本質』の中で示した理論にある、広範囲にわたる影響を伴う予期できぬ出来事について話している。この理論の主な教義の一つは、こうだ。「すでに発生した驚くべき出来事は、後から考えれば、明白で予測可能なものに見える。しかし、実際に起きる前には誰も予測していなかった」

サイバーセキュリティのエキスパートたちは、この不明瞭さに対処しブラックスワンを予測する方法を持っている

例を挙げる。例の不気味なウイルスは、3月以来、世界を封鎖している。「コロナウイルス科」系統のウイルスは実に多数(何十種類も)あり、定期的に新種が見つかっていることが判明した。猫、犬、鳥、コウモリが感染する。ヒトが感染する。一部のものは、よくある風邪の原因となる。その他は…違う兆候を示す。そこで我々は、もっと致命的なウイルス(天然痘、ポリオなど)の場合と同じように、ワクチンを開発しなければならない。だが、ワクチン接種が大いに功を奏するとはかぎらない。インフルエンザを見よーー決定的な予防接種がないまま、何世紀が経過しただろうか?それに、ワクチン開発を開始するには、自分の求めるものを知らねばならないし、これは科学というよりも人文学に近いものに見える。

なぜこのような話をしているのか?一体何と関連が…まあ、いつものようにサイバーセキュリティか異国への旅の話に行き着くわけだが、今回は前者だ。

現存する最も危険なサイバー脅威の一つは、ゼロデイ脆弱性だ。レアで、(サイバーセキュリティ関係者その他に)知られていない、本気でヤバくて大規模な恐ろしい事態と損害をもたらしかねない、ソフトウェアに内在する脆弱性だ。それでいて、実際に悪用される瞬間(またはその少し後)までその存在は気付かれない傾向にある。

しかし、サイバーセキュリティのエキスパートたちは、この不明瞭さに対処しブラックスワンを予測する方法を持っている。この記事では、そういった手段の一つであるYARAについて触れたい。

簡単に言うと、YARAはマルウェアの調査および検知を助ける存在だ。一定の条件を満たすファイルを特定し、テキストやバイナリのパターンに基づいてマルウェアファミリーを絞り込む、ルールベースのアプローチだ。目指すところは、パターンを特定することで似たようなマルウェアを探し出し、「この悪意あるプログラムは、似たような目的を持つ同じ人々によって作られたものらしい」と言えるようにすることにある。

OK、では別のメタファーに移ろう。ブラックスワンと同様に水関連のメタファー、海だ。

あなたのネットワークが、何千種もの魚が泳ぐ大海であるとしよう。あなたは漁業界の人間で、海上の船から巨大な網を投じて魚を捕らえている。しかし、あなたが欲しいのは特定の種類の魚(すなわち、特定のハッカー集団によって作られたマルウェア)だけだ。さて、この網は特殊な作りになっている。網には特別な一角があり、特定の種類の魚(特定の性質を持つマルウェア)しかその部分に入らないようになっているのだ。

漁が終わるころには大量の魚が捕れている。比較的新しいものもあれば、これまで見たことのない、ほとんど知らない魚(新種マルウェアの検体)もある。しかし、これらが例の一角に入っていたなら、「X(ハッカーグループ名)らしい」「Y(ハッカーグループ名)に見える」と言うことができる。

この魚/漁業のメタファーを裏付ける事例がある。2015年、我らがYARAマスターでありGReATのリーダーであるコスティン・ライウが、サイバー空間のシャーロック・ホームズと化してMicrosoft Silverlightのエクスプロイトを見つけ出した。詳しくはぜひ記事を確認していただきたいが、かいつまんで説明すると、彼がやったことというのは、ハッカーがリークしたメールのやりとりを子細に調査し、ほとんど何もないところからYARAルールを構築することだった。これが例のエクスプロイトの発見につながり、メガ級のトラブルから世界を守った。(メールはHacking Teamというイタリア企業からリークしたものだったーーハッカーがハッカーをハッキングしたのだった)

では、YARAルールについてだ。

我々は何年にもわたり、YARAルール作成技法のトレーニングを行ってきた。YARAが解明を助けるサイバー脅威は、かなり複雑なものだ。そのため、講座は対面で(つまりオフラインで)、しかも限られた人数のトップレベルのサイバーセキュリティリサーチャーに限定されていた。当然ながら3月以降は、オフラインでのトレーニングが難しくなった。しかし、教育の必要性は変わらない。実際、当社開催の講座に対する興味が薄れる様子はなかった。

それも当然だ。サイバー空間の悪者たちは、これまで以上に高度な攻撃を考え出し続けている。ロックダウン期間中は、特にそうだった。したがって、YARAに関する我々の専門的ノウハウをロックダウン中に他に伝えないでいるのは、明らかに誤りだ。したがって、我々は(1)トレーニング形式をオフラインからオンラインに移し、(2)誰でも参加できるようにした。無料ではないが、このレベル(非常に高い)の講座にしてはマーケットレベルの競争力がある価格だ。

こちらがトレーニングの詳細だ

Hunt APTs with YARA like a GReAT ninja

 

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