独占禁止法をめぐる最新情報

※元の英語記事は2017年5月2日に公開されました。
※2017年6月2日更新:アンチウイルス製品の通知表示期間に関する表現を編集しました。

昨年の秋、Kaspersky Labは独占禁止法に抵触するとして、ロシアの公正取引委員会に相当する連邦独占禁止庁にMicrosoftに対する訴状を提出した。

長らく報道されず沈黙が続いているが、事態はゆっくりではあるものの着実に進展している。なお、欧州委員会への申し立てに関する不正確な記事が流れているが、無視してほしい。これはドイツで取材を受けたものだが、いくつかの事実が正しく伝わらなかったようだ。通訳の過程で伝わるべきものが伝わらなかったのかもしれない。欧州委員会への苦情申し立てを「一時的に」取り下げる予定は一切ない。

いずれにせよ、よく言うように、記事を読むよりも当の本人から直接聞いた方が間違いない。今回の件について、倫理および法的規範に反しない範囲で現在共有できる真実と確定事項、今後の予定をお伝えしたい。

では、早速始めよう…。

Microsoftは独占禁止法対策として、2方向からのアプローチをとった。1つは公式に否定すること、もう1つは具体的かつ現実的な措置を講じることだ

まず、予想通り、Microsoftは当社の申し立てに異議を唱えてきた。「そのような状況を作り出してはいない」「違反していない」に加えて「独占していない」と述べている。しかし、事実は変えようがなく、Microsoftは公式に否定しつつも事態の収拾に向けていくつか重要な対策を講じた。どうやら当社の行動が何らかの形でMicrosoftを動かしたように見える。もちろん、やるべきことは多々残っているが、消費者が最適なサイバーセキュリティ製品を選択する機会が保証されたという意味で、少なからず好調なスタートを切ったといえる。

Microsoftは、2方向からのアプローチをとったようだ。1つは公式に否定すること(当然だ)、もう1つはユーザーと独立系ソフトウェア開発者の双方に歩み寄るための具体的かつ現実的な措置(ささやかではあるが)を講じることだ。

公式否定はさておき、この記事ではMicrosoftが実施した「現実的な措置」について少し紹介したい。注目すべき例を3つ取り上げよう。

1Windows Defenderの[PCの状態]ページにおける警告メッセージ

Microsoftに対する申し立ての1つは、Windows Defenderの[PCの状態]ページに誤解を招く表現(下図、英語版のスクリーンショット。以降、スクリーンショットはすべて英語版のもの)があることだ。

ありがたいことに、Microsoftはこれまで表示していたページを最近のアップデートで変更し、わかりにくくて誤解を招く表現を改めている。

では、これまでの[PCの状態]ページは何のために存在し、当社の苦情申し立ては何だったのか。

PCの保護機能に関して、何の問題もない。MicrosoftがWindows Defenderを有効にしてもらいたいだけだ

この[PCの状態]ページは、表面上はOSがユーザーに「PCの(セキュリティ)状態」を通知するためのものだが、実際はMicrosoftのWindows Defenderアンチウイルスプログラムの状態を伝えるだけのものだ。間違いなく、このページの主な目的はユーザーの不安を掻き立て、現在のアンチウイルス製品からWindows Defenderへ切り替えてもらうことだ。さらに、このページはそれをユーザーに「提案する」どころか、「Windows Defenderを有効にするには、すでにあるアンチウイルスプログラムをアンインストールしてください」と「指示して」いる。黄色の警告、感嘆符、表現を目にすると、今使っているアンチウイルス製品をアンインストールし、Windows Defenderを有効にしなければ、PCはきちんと保護されないのではという混乱と誤解を招いてしまう。

[PCの状態]ページの中から、下記に3つの画像を紹介する。不安を煽る画像や文言を使って、どうやって製品を切り替えさせようとしているのかよくわかる。

では、「PCの状態」を表した画像(大きな感嘆符付き)は、実際のところ何を訴えているのか。まさに「ヒューストン、問題が発生した」だ。前述のとおり、何の問題もない。ただMicrosoftがWindows Defenderを有効にしてもらいたいだけだ。納得のいく理由を挙げてもいない。

次はこちらだ:

ここでも感嘆符と黄色の「警告」色が使われており、何かが起こっている、何か対応しなければならない、しかもすぐに、ということを示している。結局のところ、このページの唯一の役割はPCのセキュリティ状態を示すことだ。

そして最後に大物を:

見てのとおり、大きい。しかも黄色だ。「クリックして!」と叫んでいる。ユーザーはこう思うだろう。「このボタンを押した方がよさそうだ。押せと言っているのはMicrosoftだし、Microsoftを信頼している。保護を強化できるなら、押せばいい」。繰り返しで申し訳ないが、「有効にする」必要はまったくない。単にMicrosoftが自社のアンチウイルス製品を「有効」にしてほしいと願っているだけだ。

とにかく、はるか冒頭で述べた、Microsoftが適切な方向へ舵を切るための現実的な措置を講じているという話に戻ると…

今年4月以降、(たとえばWindows 10のRS2アップデートを適用すると)サードパーティのアンチウイルス製品が存在する場合、次のように表示される。

みんなちがって、みんないい!と言うではないか。

2:そこの人、お静かに。あとは任せろ。

もう1つ、Microsoftが修正したとみられるのが、独立系アンチウイルス開発者がライセンス有効期限が間もなく切れるという警告を出せるようにしたことだ。ご存じのとおり、アンチウイルス製品のライセンスはサブスクリプション方式だ(1年、2年、3年契約など)。ベンダーによって異なるが、サブスクリプション期間中、ユーザーはテクニカルサポート、新しいテクノロジー、新バージョン、アップデート、追加のツール、割引、キャンペーンなど、さまざまな特典を受けられる。製品をそのまま使い続けるには、サブスクリプションの有効期限が切れる前に更新する必要があり、その通知をアンチウイルスベンダーが出すことは合理的だ。

しかし、Microsoftは独立系アンチウイルス製品がライセンス切れの警告を表示することを禁止していた。具体的には、期限切れ5日前から期限切れ3日後の間だ。その代わり、Windowsシステムの警告をWindowsセキュリティセンターに表示した。こうしたポリシーによってライセンス更新数は激減し、一方のWindows Defenderの市場シェアは増加した。なぜなら、サードパーティのアンチウイルス製品の有効期限が切れると、Microsoftはユーザーに無断でWindows Defenderを秘かに有効化していたからだ。これは驚くべきことだ。しかし、独立系アンチウイルス開発者の間に怒りが広がったのは、それほど驚くようなことではない。

幸い、当社が独占禁止法違反に関する申し立てを行ってからほどなくして、アンチウイルス製品が期限切れの通知を表示できるのは期限日まで5日未満の期間とする制限が撤廃された!

3:ルーク、私がお前の父親だ。

Microsoftは、Windowsに関して独立系アンチウイルス開発者に新たな制約を設けようと計画した。システム上で有効にできるアンチウイルスを1に絞るという内容だ(または2つ。ただし2つめがWindows Defenderの場合のみ!)。良いニュースは、この計画をMicrosoftが破棄したことだ。なぜこの制限が災いとなるのか、簡単に説明したい。

より快適な使い勝手を考えると、一見、筋が通っているように見える。だが、悪魔は細部に宿る…。

試用期間が終了すると、Microsoft以外の2製品が無効化され、Microsoftの1製品が有効化される

たとえば、PCに独立系アンチウイルス製品をインストールしていたとしよう。意図的、または(バンドルされていたために)知らないうちに、もう1つ別のアンチウイルス製品の試用版をインストールし、削除やライセンス購入を忘れたとする。試用期間が終了すると、お察しのとおり、Windows Defenderが有効になる。つまり、Microsoft以外の2製品が無効化され、Microsoftの1製品が有効化されるのだ。快適どころか、安全な操作性は何一つない。

正しい方向へ

こうした変更をなぜMicrosoftが行ったのか、正確なところはわからない。

当社の申し立てとは関係なく、Microsoftが状況を鑑み、いくつか変更している可能性は除外できない。だが、これは同社が独立系アンチウイルス開発者との間で起きた初めての衝突ではない。今回のような対立の歴史を振り返ると、Microsoft側の暗い将来、もっと言えば大きなリスクや風評被害の可能性を暗示している。ユーザーや(セキュリティ業界に限らず)独立系開発者の双方の不満が一役買ったと考えられる。また、当社の取り組みも影響を与えたかもしれない。いずれにせよ、現在Microsoftは正しい方向へと進んでいるようだ。

だが、ここで終わりではない。我々は健全な、繰り返すが、健全な競争を求め、その中ですべての市場参加者に平等な機会が与えられることを要求し続けるだろう。そのときになって、ようやくユーザーは、OSが無条件、不公平に選んだもので済ますのではなく、自分が望む高品質な製品を選び、利用できる。そこで初めて、自分にとって最も大切なものをサイバー脅威から効果的に守ることができる。

どのPCにも同じアンチウイルス製品しかインストールされていないのは、アンダーグラウンドの悪意ある者にとって好都合だろう。サイバーセキュリティにおける独占状態は、さらなる被害をもたらす可能性がある

どの分野でも独占状態は停滞と規模縮小を招き、改竄や舞台裏での不正操作が横行する。いずれも消費者の利益にならない。特にサイバーセキュリティにおける独占状態は、世界中の何百万台ものPCを停止させ、重要インフラをリスクに晒しかねず、さらに大きな被害をもたらす可能性がある。どのPCにも同じアンチウイルス製品しかインストールされていないのは、アンダーグラウンドに棲まう悪意ある者にとって好都合だろう。

次の一手は?

Microsoftに対して独占禁止法違反の申し立てをしてから6か月以上が経つ。今のところ滞りなく進んでおり、この問題に関して妥当な解決策が見つかる望みがある。

Microsoftが猛烈に自己弁護し、独占的地位の乱用を否定することは明らかだ。一方で、上記3つの例が示すとおり、Microsoftがこれら変更の必要性を理解し、実行計画を立てて従う可能性も高い。独占禁止法の運用機関に提出された十数以上の問題もいずれ解決されることに期待が持てる。

次のステップは?

これらの問題について一刻も早く効果的な解決策を見つけるため、今後もMicrosoftと話し合う用意がある。はっきりさせるべきことはまだ多く残っているので、ロシアの連邦独占禁止庁との話し合いも増えるだろう。それと並行して、近いうちに欧州委員会へ苦情申し立てを行う予定だ。詳細は近々報告する。

最後に、これら非常に重要な問題に対して当社が明確な立場を表明せずにいられなかったことをご理解いただきたい。皆さんがデジタル生活を守るために製品を選ぶ権利を求めて戦っているのだ。

Microsoftは独占禁止法違反を否定しつつ、独立系アンチウイルス開発者の要求に秘かに対応中。 @E_KASPERSKY が詳細を語るTweet
コメントを読む 1
コメント 1 コメントを書く

    名無し

    今の状況はネットスケープがマイクロソフトを訴えた時と同じ状況になっていると思います。
    カスペルスキーの行動はWindowsDefenderも相当使えるようになったという事の証左でしょうね。

コメントを書く